それはいつもと変わらない志村家の朝だった。
「新ちゃん、ちょっと聞いてもいいかしら?」
「何ですか?姉上」
お妙は爽やかな朝に相応しい、にこやかな笑顔で言い放った。
「新ちゃんはエロ本をどこに隠してるの?」
――ガゴーンッ!
新八は思わず頭を机に打ち付けていた。
「姉上ェェェ?!朝っぱらから何言っちゃってるんですかァァァ!」
「だって新ちゃんも、もう十六でしょう?色々とヤリたい盛りじゃない」
「ちょっとォォォ!その表現なんかエロいから止めてください!」
「でも、エロ本の一冊や二冊持ってると思うのよねぇ」
確信に満ちた目で見てくるお妙に新八はため息をついた。
「……姉上、なんでそんな話になるんですか?」
「昨日、お店の女の子と話をしててね……」
* * *
それは、スナックすまいるでのこと。休憩時間にお店の女の子と喋っている時に、たまたま姉弟の話が上がった。
「へー、お妙も弟いるんだ」
「一人ね。確かお菊ちゃんもお岩ちゃんもいたでしょう?」
「うん、ウチも一人」
「あたしも。けど、お妙の弟にはちょっと同情しちゃうなぁ」
「何故?」
「えっ、あ、その…………あっ、そーだ!弟のエロ本の隠し場所って知ってる?」
「エロ本?」
「知ってるー。ウチのはありきたりだけど、ベッドの下」
「あたしのとこはタンスの中。すぐ分かっちゃうわよねぇ」
「バレバレだよねぇ」
「……二人ともよく知ってるわね」
「えっ?姉として当然じゃない?」
「お菊ってば。まあ、姉としてかは分かんないけど、やっぱりこそこそしてると、分かっちゃうわよねぇ」
「へぇ……そんなものなのかしらねぇ」
* * *
「……ってことがあったのよ」
お妙が新八の目を見据える。
「だからね、新ちゃん。私は姉として、あなたのエロ本の隠し場所を知らなきゃならないよの」
「いやいや、おかしいですから!別にそんなこと知らなくていいじゃないですか!」
「良くないわ!姉としての沽券に関わるのよっ!」
お妙の迫力に新八が怯む。
「あのエロ牝とラブホテルで乳繰り合うところだったんですもの。エロ本の十や二十無い方がおかしいわ」
「姉上ェェェ!エロメスです、エロメスッ!」
「あんな女、エロ牝で十分よ。で、どうなの新ちゃん」
「持ってません!」
「新ちゃん!」
「ご馳走様でした!万事屋に行って来ます!」
「あっ、ちょっと!」
それでも律儀に食器を台所に片付けてから逃げ出す新八だった。
「……人間って隠されると余計知りたくなるのよねぇ……」
* * *
いつも通りの万事屋の朝の食卓の風景。今日は、ご飯に味噌汁、それに納豆にメザシと標準的なメニューである。食べる二人に新八は朝の出来事を話して聞かせた。
「姉上が変なこと言い出して参っちゃいましたよ」
「オイオイ、エロ本探しは母ちゃんの専売特許だと思ってたのに、姉ちゃんもかよ。おっかねぇなァ」
味噌汁をずずっと啜りつつ、銀時は笑った。
「でも新八、私たちだって銀ちゃんのエロ本の隠し場所知ってるネ」
「そりゃそうだけどさァ」
「は?え、えェェェェ?!ちょっと待てェ!お前ら、知ってるって!」
新八も神楽も慌てふためく銀時に冷たい眼差しを向ける。
「まさかバレてないとでも思ってたアルか?」
「バレバレですよ、アンタ」
「な、ど、どこに隠してるんだか、ホントに知ってんのかよ!」
「「この部屋の天井裏」」
「お前ら……っ!」
「そこのタンスを足場にして上がってるでしょ」
「銀ちゃんは熟女好きネ」
ちなみに、そこのタンスというのは銀時の机の向かって右側、壁際にあるタンスのことを差す。
「絶対バレてないと思ってたのによーっ!」
「いや、だってあそこの天井板だけ不自然に手垢ついてるし」
「う」
「ま、銀ちゃんも男だから仕方ないネ」
「ここは銀さんの家ですし、僕らの届かない所に仕舞ってもらえばそれでいいです」
動揺する銀時とは対照的に、二人は冷静に言ってのけた。
「なんで、この歳にもなって、母ちゃんにエロ本探される子供の気持ちを味合わなきゃならねーんだよ!」
「だったらもうちょっと上手く隠してください」
「お前が変な話するから悪いんだろーがァァァ!」
「そうヨ。新八はどこ隠してるネ」
「だから、隠してないって」
「だって、さっちゃんの修行の時にエロ本買ってるネ」
「「あ」」
単行本八巻の第六十七訓。捕らわれたエリザベスを救出すべく、奉行所に忍び込む事になった万事屋一行と桂。さっちゃんに忍びの極意を教えてもらうため、店員にも客にも気付かれないようにエロ本を買うというミッション。新八はニンジャーホルスタインという馬鹿みたいに目立つ恰好をしながら、その見事なまでの存在感の無さで、エロ本を手に入れていた。
「そうだ!お前、いやらしい顔して持ってやがった!」
「いやらしいって!何言ってるんですかっ!」
「なーに、新八君。男なら当然だって」
「そうですね。溜め込んだエロ本の下で暮らしてる銀さんに言われると説得力がありますね」
墓穴。
「結局、あの本はどうしたアルか?」
「廃品回収のときに一緒に出しちゃったよ。家だと姉上いるし」
「フーン」
* * *
ジリリリ ジリリリ ジリ
『姐御、銀ちゃんダシに探ってみたけど駄目だったアル。本人は廃品回収に出したって言ってたヨ。でも絶対ウソに決まってるネ!』
「ふふ、ありがとう、神楽ちゃん。またお願いね」
チン。電話を置いたお妙がふう、とため息をついた。
「さすがに新ちゃんの部屋を漁るのはねぇ……。まあ、いいわ。姉の名にかけて絶対見つけ出してみせるんだから」
その頃の新八。
(マズいなぁ……隠し場所変えた方がいいかなァ)
この後、しばらくこの攻防が続くことになる。
エロ本の何が悪いんじゃァァァ! by新八
2006.11.23