周りは天人どもに囲まれている。俺と銀時は岩陰に身を潜め辺りを窺っているが、状況は芳しくない。それどころか最悪だ。考えられる手としては強行突破しかないのだが、お互い疲労しているのは目に見えている。諦めてはいないが、絶望的状況ではある。
「なあ、高杉」
「なんだよ、ここを脱出する方法でも浮かんだか」
「愛してるって言って」
「はぁ?テメェとうとう頭イカれちまったかァ?腹ァ切れ腹を。昔からのよしみで介錯くらいやってやらァ」
「違うって」
「じゃあ、なんだよ」
「……なんとなくだけど、仮初めの愛でもあるなら生きていけるかなぁって思ってさ」
どこか遠くを見ているような銀時に俺はただただ絶句する。
別に愛があるだなんて言わない。けれど、ガキの頃から顔を合わせて、ともに戦に出るようになって、友情、信頼、仲間意識、言いようは幾らでもあるが、それに似たものは確かにあると、口に出さずとも疑ったことはなかった。それなのに、この男は。これまでは日々は一体なんだったのかと、ぶん殴ってやりたい衝動に駆られた。
けれど、張っ倒したいような怒りと、泣きたくなるような哀れさと、笑い出したくなるような滑稽さが入り混じって、結局は唇を噛み締めただけに終わった。代わりに辛うじて言えたのは負け惜しみの様な一言。
「銀時、愛してる。だから死ね」
白夜叉と呼ばれる男は一瞬ぽかんとした後、ニンマリと笑った。
「ひっでえの!ホントに死んだらどうすんだよ!」
「ハッ、この俺がいるのにそう易々と死ねると思ってんのかァ?」
「いやいや、それは俺のセリフだから」
嗚呼、コイツは俺の苦悩なんてわかっちゃいないんだろう。いつもそうだ。銀時は他人を信じて、自分の気持を信じて、けれど、他人から銀時へと向けられる気持ちを信じようとはしない。全てが虚空に霧散する。
そうこうする間にも敵はじりじりと包囲の輪を狭めてきている。そろそろ頃合いか。俺も銀時も刀を抜く。
「さーて、一丁やるか」
「さっさと戻んねぇとヅラがうっせぇからな」
敵の真っ只中に躍り出す。
斬って斬ってひらすら斬って。血飛沫舞う中、はっきりと見えるアイツの白い姿。
(この大馬鹿ヤロウ!!テメーなんか死んじまえッ!!)
泣き出さないのがせめてもの意地だった。
いっそ泣けたならば。
2006.07.26