その厚みこそ心配の証

五月晴れの爽やかな風が吹く中、真選組屯所の縁側で沖田と近藤がのんびりと喋っている。

「今日はあったかいですねィ、近藤さん」
「そーだな、ほんといい天気だなぁ」
「こんな日は土方さんの呪殺の儀式でもしたくなりやすねィ」
「俺はお妙さんに会いに行きたいなぁ。ハァァ、この爽やかな季節こそお妙さんと会うにはピッタリだもんなぁ」
「ゴリラ見物にですかィ?まあ、暇だし近藤さん行ってきたらどうです?そしたら俺は土方さんを呪い殺す儀式に専念できまさァ」
「うーん、どうするかな」

スパーンッ!
二人の背後にある障子が勢い良く開いた。

「どうするかな、じゃねェェェ!」
「おっ、トシ」
「何だ土方さん、いたんですかィ」
「障子の向こうは俺の部屋だ!丸聞こえなんだよォォ!つーか知ってて喋ってんだろ!」
「当たり前じゃねぇですか。アンタ馬鹿ですかィ」

キレる土方だが沖田は平然としたものである。

「総悟ォォォ!大体、真っ昼間から呪いの儀式たぁどういうことだコラァ!」
「おっ、夜ならいいんですねィ」
「やるんじゃねぇ!大体、近藤さんも何スルーしてんだよ!」
「えっ?いや、俺は関係ないし」
「オイィィィ!」
「冗談だって、トシ」

沖田におちょくられるのは毎度のことだが、近藤に言われてはさすがの土方もがっくりと肩を落とす。

「……もう、いいよチクショー。ったく二人とも仕事したらどうなんだよ。書類溜まってんだろうが」
「ん?俺は今のところ無いよ」
「俺も無いですぜ」
「マジでか?!」
「大マジですぜ」
(俺んとこには山ほど溜まってんのに……)

さっきも机に山積みとなった書類を処理していたのだ。

「俺はトシから回ってきたのは全部見たぞ」
「そりゃあ、そうだ……あっ!総悟テメェ!」

気付いた土方に沖田がニヤリと笑う。

「やっと気付きましたかィ。副長決済の書類だけ溜め込むってのもなかなか面倒だったんですぜ」
「あの書類の山はテメーのせいか!アレ全部片付けるのにどんだけ掛かると思ってんだよォ!」
「何、飲まず食わずでやりゃ今日中には終わりまさァ。ヤバそうな書類だけは回しておきやしたし」
「その点だけは感心だがって、そもそもが間違ってんだよ!」

土方が沖田に詰め寄るその横で、近藤が伸びをしながら立ち上がる。

「さーて、俺はお妙さんの所でも行こうかなあ」
「え」
「俺は儀式の支度っと」
「オイ」
「それじゃ、トシ頑張れよ」
「ま、せいぜい頑張ってくだせェや」

近藤と沖田は土方に笑顔で手を振ると本当にそのまま行ってしまった。
残されたのは土方と大量の書類だけ。

「ウソォォォ?!マジで行っちまったよオイ!」

土方の叫びが虚しく屯所に響く。

「……仕方ねえ、誰かに手伝わすか」

山崎でも呼び付けるかと悲しい気分で書類の待つ部屋へと戻った。


  * * *


土方から姿が見えなくなった辺りで近藤は振り返った。

「なぁ、総悟。少し可哀想じゃないか?」
「土方さんにはいい薬でさァ。どうせたいした書類じゃないんだから土方さんが全部見る必要はねェし、山崎にでも処理させればいいんでさァ。あの人は何でもかんでも抱え過ぎる」

土方は真選組内の書類の全てに目を通している。郵便物や命令書なども含め、その量は決して少なくない。デスクワークが得意というわけでもないので、夜遅くまで部屋の明かりがついていたりする。そんな状況を見兼ねた沖田はあえて書類を溜め仕事を他へ回させようと考えた。あれだけあればさすがに一人でやる気にはならないだろう。

「……トシのこと心配してるんだなあ」
「違いまさァ。俺が副長になった時の前支度でさァ」

素直には言わないその沖田らしさに近藤は苦笑する。

「まっ、そういうことにしておこうか」

空は雲一つ無い青い空。

「さあて、市中見廻りに行くか」
「ちょうどいい天気ですねィ」

近藤と沖田は顔を見合わせて笑った。

そんなのいらねェェ!by土方

2006.05.26

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