宇宙の花見

貨物輸送中の宇宙船は、地球から随分と離れた取引先の星へ来ていた。
ここでの商談も無事成立し、荷下ろしの準備のために船倉へと向かう。

「むーつ♪」
「なんじゃ、気持ちが悪い呼び方をしおって」

途中でわしを呼び止めたのは、社長の坂本。
他に思い当たるような阿呆はこの船に乗せてはいない。

「おんしゃ何か好きな花はあるか?」
「花か?……花壇の花よりは、梅や桜のような樹木の花の方が好みじゃが、この忙しい時に何の用じゃ」
「おお!そりゃ良かった!」

突然の問いに真意を読めずにいると、坂本はさっきから後ろ手に隠している物を出した。
それは、淡いピンクの花が見事に咲いた桜の花だった。

「どうじゃ陸奥、綺麗じゃろ!」
「おんしゃ、どうしたんじゃコレは」
「今江戸は春じゃろ?じゃが、今年は花が散るまでに戻れそうにはないきに、知り合いに頼んで送ってもらったんじゃ。いかに四季とは無縁の宇宙といえども、こういうのは大事じゃからな。どうじゃ、これで一杯花見酒と洒落込まんか?」

嬉しそうに言う坂本に、それで星に着くなり船を離れたのかと納得する。

「まずは仕事が先じゃ。……その後なら付き合ってやらん事も無い」
「おし!それじゃあ、さっさと終わらせてくるぜよ!」

坂本は上機嫌に鼻歌を歌いながら通路へと消えていった。
毎年、春といえば花見だった。仕事で地球に戻れない時は、いつも残念そうにしていたのを思い出す。目の前の桜は確かに綺麗だし、それに、坂本と酒を飲むのは嫌いではなかった。
花見酒一つに随分と張り切る坂本と、こんな些細な事に喜んでいる自分に呆れつつ、早ようと急かす声の元へと向かった。


真っ暗な宙に映える桜。

2006.04.05

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