葬送

とある日の昼下がり。相変わらず暇な万事屋では、銀時がジャンプを読みながらソファに寝そべっていた。いつもだと、新八が小言の一つでも言ってくるところだが、今日は用があるとかでここにはいない。お蔭で自堕落のし放題といった状況である。
神楽はというと、昼飯を食べ終わり、新聞に目を通している。ただ、いつもはそれなりに読んでいるのだが、今日はどこか上の空で紙面を見ているだけで読んではいなかった。
と、思い立ったように顔を新聞から上げた。

「ねえ、銀ちゃん」
「んー?」
「今日、お葬式してるとこ見たネ」
「ふうん?別に珍しかねぇだろ?」
「ウン、けど」

珍しく歯切れの悪い神楽に、銀時は顔を上げた。
神楽はどこか思いつめたような表情を浮かべていた。

「けど?」
「……きっと私はお葬式なんて出来ないネ」
「…何で」
「私は戦って死ぬネ。それが夜兎の定め」

きっぱりと言い切った神楽に銀時は言葉に詰まる。

「…お前、夜兎の血と戦うって言ってたろ?そりゃあどこいったんだよ」
「ウン。だからきっと戦う。戦う理由は色々あるネ、例えば銀ちゃんみたいに」
「神楽…」
「それでイイネ。きっと後悔はしないアル。ただ……ほんのちょっと寂しいと思っただけネ」

そう言って微かに笑ったが、それは今にも泣きそうにも見えた。

「なーに言ってんだ。お前まだまだ子供だろーが。これからなァそうやって胸張って生きてきゃ、きっと誰かがちゃんと弔ってくれるさ」

神楽の頭をガシガシと撫でてやりながら、銀時は自分の事を考えていた。
かつて、自分も同じことを考えていた。殺し殺される日々。仲間の死を見るのは辛かったが、どこか既に慣れていた。当然、自分もここで死ぬのだろうと思っていた。
けれど、生き延びた。五体満足に。
それでも、多くの命を奪ってきたという事実。どんなにどんなに頑張ってもそれは変えられない過去。確かにあの時は戦場という生死を賭けた戦いの場。そういう約束が成り立っていた。それでも突然、仇と呼ばれ殺されたとしても驚かない。
自分がろくな人間ではないと知っている。どこかで野垂れ死ぬか戦って死ぬのが自分にはお似合いの死に方だ。どちらにしろまともに葬式なんぞしてもらえるとは思わない。そう、確信している。
ふと、我に返るとニヤリとした神楽と目が合った。

「大丈夫、銀ちゃんはそんなこと心配する必要ないネ。例えどんなことがあったって、私と新八と定春で銀ちゃん探し出して、立派な葬式出してやるネ」
「期待はしねーよ」

そうぶっきらぼうに答えた。

  * * *

神楽は定春と遊びに行ってしまい、ここには銀時一人。

「やっべー、泣きそうじゃん、俺」

愛されている、という実感。

2006.01.31

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