帰るところ

数日前、久々に万事屋に舞い込んだ依頼。

「お前にゃ無理だ」

そう言われて新八は独り留守番をしている。
もう一人の従業員、神楽は銀時と一緒に仕事に向かっているというのに。
今回の仕事は少々荒っぽい依頼なのだ。自分が三人の中で一番弱く、今回の仕事では役に立たないのは分かっている。それでも一人置いてけぼりにされたようで悔しい。

  * * *

帰ってくる予定の日から、もう二日も経つ。

(まさか……)

そんな不安が頭をかすめる。
テレビには大好きなアイドル、寺門通が映っていたが、それもチラリと見ただけでチャンネルを変えてしまった。

「早く帰って来いよ、バカヤロー」

家事も終わってしまい、やることがない新八はそのままソファで膝を抱え二人が帰ってくるのをじっと待っていた。

 * * *

そのまま眠ってしまった新八は外階段を上がってくる足音で目が覚めた。その足音は玄関で止まった。

「新八 ただいまー」
「ただいまアル」

「銀さん!神楽ちゃん!」

新八は慌てて玄関へ向かった。

「おかえりなさい」

笑顔で出迎えた新八は、二人が無事に帰ってきたことに安堵した。
しかし、よく見ると銀時も神楽も泥だらけで、おまけに所々に血が飛んでいる。

「怪我したんですか?!」
「大丈夫、ただの返り血ネ。私も銀ちゃんも一つも怪我してないヨ」
「それなら良かったけど……。って、二人ともその恰好で歩いてきたんですか?血も付いてるのに、よく通報されませんでしたね。服くらい依頼者に借りても良かったんじゃないですか?」

そう言うと銀時は少し困ったような顔をした。

「いや、そうは言われたんだけどよぉ……」
「?」

着替えをすすめられて別に断る理由はないだろう。それとも着られない様なとんでもない服でも出されたのだろうか。
新八は不思議に思っていると、神楽がニヤニヤしながら言った。

「銀ちゃん、新八が心配して待ってるからって早く帰ってきたネ」
「え!そーなんですか?!」

驚いた新八は更に渋い顔をする銀時の顔をまじまじと見つめた。

「バカ。俺は特番に出る結野アナが見たかったから、急いで帰ってきたんだよ。着替えようって言ったのに神楽が早く帰ろうってうるさかったんだよ」
「それは銀ちゃんネ!」
「お前だろーが!」
「銀ちゃん!!」
「おま――」
「子供のケンカか、お前らァァァ!」

キレた新八に二人とも黙る。

「まったくもう……」

溜息をついて俯いてしまった新八に、二人は声を掛けた。

「……新八?」
「どうしたネ」
「……心配したんですから」

新八の呟きに、銀時はきまりが悪そうにガシガシと頭を掻いた。

「……心配すんなって。お前が待ってんの忘れてくたばったりしねぇからよ」
「そうアル。それに今度は一緒に行くネ。やっぱりツッコミがいないと駄目アル」
「僕の存在意義はツッコミだけかよ!!せっかく感動したのに!とにかく二人ともすぐお風呂に入ってください!すぐにご飯の支度をしますから!」

そう言うと新八は台所へ向かった。
その後ろ姿を見ながら、銀時と神楽が囁き合う。

「やっぱり早く帰ってきて正解だったな」
「銀ちゃんが早く帰りたかったんでショ」
「お前もだろ」
「ウン」

早くも台所からはいい匂いがしてきている。

迎えてくれる場所がある。迎えてくれる人が居る。

2006.01.22

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