25 幸せ連想5題 (作成元:lot)


1.今日も平和 明日も平和

「ヘイ、らっしゃい。あ、久々だねスペちゃん。
どっか行ってたの?あ、地球。地球ねェ、随分遠かったでしょ。そうでもない?そうか、スペちゃん飛べるもんねェ。

おや?何か辛いことでもあったのかい?そりゃあわかるさ、ぐちり屋だもの。言ってごらんよ、そのためにウチみたいのあるんだからさァ。っと待ったお客だ。

いらっしゃい。悪いけどスペちゃんちょいとばか寄ってくれるかい。すまないねェ。姐さんは焼酎ね。ヘイ、お待ち。見ない顔だねェ。ウチの店のこと説明しとくと、あ、知ってる?ウチも結構いろんな星にあるからねェ。

聞いてやってくだせェよ。こっちのスペちゃんね、宇宙の平和を護ってる的な感じなんだけど、ずっと報われない恋してんでさァ。好きになった相手がよりに よって敵の大将だっていうんだから、ツライでしょ。え、進展があった?バレンタインに告白した?おぉ、ついにしたんだ。え?

…………え、あー、そう、そうなんだ。その手でねェ。

そっちの方、顔色悪いですけど、大丈夫ですかィ。え?自分の話も聞いてほしい?もちろん、構いやせんよ。

姐さんも恋の話ですかィ。いやいや、やっぱりウチじゃあ一番多いですよ。片思い?へぇ、上司。不倫ってわけじゃねぇんだね。とある組織の大将でとある星まで侵略に向かったら、宇宙を守る感じのヤツにやられた、と。まあ、仕方ないとはいえ、ツライねェ。

あれ、スペちゃんどうしたの。表情硬いよ。せっかくぐちり屋来たんだから、溜まってること全部吐き出して、すっきしないと。

姐さん?スペちゃん?どうしやした?

……………………。

スペちゃん、姐さんのお勘定も頼みまさァ。ヘイ、毎度ありー。」


(スペースウーマンとぐちり屋)

2.甘さに浸って

あの日のことは今でもはっきり覚えている。

「なぁ、お房よ」
「何ですか?」
「駆け落ちしないか?」
「え?ふふふ、それも良いかもしれませんね。さぁ、お薬を飲んでくださいな」

全く取り合ってくれないお房。いつもの冗談だと思っているのだろう。

「本気なんだが」
「……え」
「嫌か」
「いえ、そんな……」

困るのも無理はない。なにせ俺は年がら年中この離れで寝付いている身。いきなり駆け落ちなどと言われても、現実味がないだろう。
でも――。

「あのオッサンが俺たちのことを認めてくれると思うか?」
「……勘太郎様は橋田家の跡継ぎでいらっしゃいます。いずれ相応しい方がお輿入れになるのでしょう。旦那様もきっとそう望んでおられます」
「お房はそれでいいのか?」
「っ、いいわけないじゃないですか!でも、私はただの使用人でどうすることも出来ないんです!」

お房の目から涙がぽたぽたと流れ落ちる。あぁ、泣かせるつもりなんてなかったのに。そっと抱き寄せ、涙を拭ってやる。腕の中の暖かさが何よりもいとおしい。

「俺はこんなところで死んでいくより、お房と一緒に生きていたんだ。それがたとえ寿命を短くすることになったとしても、俺は後悔しない。なぁ、ここを出て一緒に暮らそう」
「……………はい」

数日後、俺たちは親父に見つからないよう、こっそりと屋敷を出た。


* * *


――お房、それからまだ見ぬ俺の子供。
ごめんな。俺はお前達に何もしてやれなかった。
それでも俺は――


「オイ、勘太郎、勘太郎!目を覚ましてくれェェェ!」


(勘太郎)

3.幸いな一日 幸福な生活

ひやりとした感触でふと目が覚めた。

「あら、起こしてしまいましたか?すみません」
「……いや、うつらうつらしてただけだ」

ぼんやりとした頭で松子が額の手拭いを換えてくれたのだと思い至った。床に臥せった自分を甲斐甲斐しく面倒見てくれる松子をありがたいとは思う。しかし、たかが風邪ごときで寝込むことになった自分の衰えに、これから先を思い暗澹たる気持ちになった。

「なぁ、松子さんよ」
「なんですか、お父様」
「こんな老い耄れどうか見捨ててくれねェか。アンタは今まで良くやってくれた。アンタのお陰で俺も息子も楽しい毎日を過ごさせてもらった。だからこそ迷惑を掛けたくねェんだよ」

丈夫なのが取り得なだけに、少し弱気になっていると自分でも思う。しかし、紛れも無い本心でもある。障子越しの光は穏やかで暖かいが、先刻まで寝ていた自分には少し眩しい。

「……お父様のお気持ちは分からなくないですし、そのお心遣いをありがたくも思います。でも、私は娘としてお父様の面倒をみるのは当然だと思っているんです。ですから、そんな寂しい事おっしゃらないでくださいな」
「松子さん……」


* * *


「――というもぐらたちが」
「いるかァァァァァ!続きとかいらねぇんだよホント!」


(松子と舅)

4.退屈な幸せ

店の入口に人の気配がしたので顔を上げたら、見知った顔だったのでうんざりした。

「なんだアナタなのん」
「なんだとは随分なご挨拶ね」

どうして恥ずかしげもなく真昼間から忍び装束で歩き回れるのか神経を疑いたくなるような女は、広くもない店をぐるりと見回した。

「暇そうね」
「まあ、お客さんがこないからねん」
「それもだけど、本業の方」
「ああ、このところそっちもさっぱりなのよん」

元々全蔵と組む時くらいしかそっちの仕事はしていないとはいえ、このままでは腕が鈍ってしょうがない。だからといって焦っている訳でもないし、今の生活が嫌だという訳でもない。

「つまらなくない?」
「生憎と私はアンタと違って花屋でも生きていけるの。一緒にしないでくれるかしらん」

始末屋としてしか生きられない女には分からないのだろうから、これは仕方がない。とはいえ、哀れには思っても同情は出来なかった。


(脇)

5.また来年

妻の墓前に立った星海坊主は、その有り様に少しだけ眉を顰めた。
暫くの間手入れのされる事のなかった墓は、生い茂った草に埋もれている。神楽が星を離れた今となっては、この墓を訪れる者は星海坊主しかいない。そのことに一抹の寂しさを覚えたが、それは自分のせいだと後悔の念が押し寄せる。

雑草を抜きながら、色々なことをここにはいない妻に語り続けた。
神楽のことや地球で出会った者のこと、自分の仕事振りや神威のこと。
懺悔にもならないと知りながら。

すっかり綺麗になった墓前に花束を供えた。
それは菊の花でも白百合の花でもない。
生前、星海坊主の妻が好きだと言っていた花。


――今日は二人の結婚記念日だった。


(星海坊主)

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