20 珍しめな組み合わせで(一つはそうでもない)


阿音と新八

大江戸マートで買い物を済ませて、店を出たところで阿音さんと声を掛けられた。その顔をすぐに思い出せなかったのは私のせいじゃない。地味な眼鏡少年が悪い。

「ちょうど良かったわ。袖擦りあうも何かの縁。コレ持ちなさい」
「持ちなさいってアンタ何様?!しかも僕だって荷物持ってんですけど!」
「男でしょ」

そう言うと言葉を詰まらせて、渋々荷物を持った。まあ、持ってくれるのだし、優しいのか単純なのかは保留しておいてやろう。

「重っ!こんな重いもの買うなら、百音さん連れてくれば良かったんじゃないですか」
「あの子引きこもりなの」
「え、そうなんですか」

まあ、百音と外で会ったのだし、知らなくて当たり前だ。それなのに何だか困ったような表情を浮かべている。

「……あの、何かスミマセン」
「いいのよ。別に単なるグータラなんだから」

そう言うと、変な顔をした。

「何よ」
「いや、こう言っちゃうとアレなんですけど、阿音さんなら無理矢理にでも家から追い出しそうだなーって」
「アンタねぇ、私のこと何だと思ってんの?」

睨み付けると、微妙に引き攣った表情で笑い返してきた。まったく失礼な。

「仕方ないでしょ。あの子の姉は私しかいないんだし」

自分の片割れを見捨てることは、さすがの私でも出来なかった。それに。

「こう見えてもね、神子に仕えているのは誇りだったのよ。私はさっさと巫女であることを利用したけど――」

本人には絶対言わない。


「百音にはもう少しだけ、巫女でいて欲しいような気もするのよ」


それは自己満足でしかないとはわかっているけど。

「……定春、元気ですよ」
「でしょうね、狛子も相変わらずよ」

護るべきものは奪われ失われてしまったけど、護りたいものは残されている。
別に今を不幸せだとは思わない。

銀時と沖田

ほろ酔い気分の帰り道。まだ、日付も変わらないだけあって、人通りは少なくない。それどころか、やけに騒がしいと思えば、前方には人だかりが出来ている。どうやら、捕物があったらしい。微かに漂う血の臭いに、さっさとその場離れようとすると、

「おや、旦那じゃねぇですかィ」

と呼ばれて仕方なく振り返った。
隊長だからなのか沖田だからなのかは知らないが、現場は隊士たちに任せきりらしく、声を掛けられた俺は何とも言いようがなく、

「大変だね」

とだけ言った。すると、

「これが俺らの仕事ですからね。仕事だと割り切れない旦那の方がよっぽど大変だと思いますぜ」

沖田の言葉に眉間に皺がよるのが自分でも分かる。

「何言ってんの。本当に割り切れてんなら、ウチに厄介事持ち込む止めてくんない」
「旦那、言うは易し行うは難しって言葉知ってやす?」
「そういう君こそ有言実行って言葉知ってる?」

それが出来りゃあ苦労はないんですよ、と沖田は笑った。

幾松と地球防衛基地の店主

リサイクルショップ地球防衛基地。店のドアがからりと開く。気怠げに顔を上げた店主はおやと声を上げ笑った。

「珍しい。今日はお店休みかィ」
「そう。お昼まだでしょ?」

そう言って北斗心軒店主、幾松は持っていた岡持ちを掲げた。

リサイクルショップの奥にある居住スペースで、幾松からの土産であるラーメンを食べつつ世間話に花を咲かす。
そして、あらかた食べ終わったころ、リサイクル店の主は幾松の顔を覗き込むようにして見つめた。

「何?あたしの顔になんか付いてる?」
「いやねェ、アンタなんか綺麗になったかい?」
「何よ、薮から棒に」
「もしかして男でも出来たのかィ?まァ、旦那さんが亡くなって随分経つし、女手独りでラーメン屋やってくのも大変だものねェ」
「ちょっと変なこと言わないでよ」

そう言いながらも、幾松の脳裏にはウザったい長髪の男が浮かんでいた。

「ねェ、誰よ。教えなさいよ」
「だからいないって言ってるでしょ」

もしそうだったとしても、まさか桂小太郎だと言うわけにもいかないのだけれど。

土方と勘七郎

市中見回りに出た土方と沖田は、賑わうかぶき町の通りを歩いていた。

「っと」

土方の足に何かがぶつかり、見れば子供が転んでいる。今までにも散々泣かれ、自分が子供に怖がられることを自覚している土方だが、それでもしゃがみ込んで膝をはたいてやる。

「大丈夫か、坊主。怪我ねぇ……」

子供の顔を見た土方は思わず絶句し、まじまじと見つめてしまった。
まさか取って喰われるとは思っていないだろうが、母親が大慌てで駆け寄って来た。

「すみません!この子ったら手を離したら急に走り出して」
「あ、あぁ。俺もよそ見をしてたから気付かなかった。悪かったな」

母親は頭を下げながら子供の手を引いて立ち去っていった。

「ふーん。あれが母ちゃんか」

二人の後ろ姿を眺めていた土方は沖田の呟きにばっと振り返える。

「お前知ってんのか」
「万事屋の旦那の隠し子でさァ」
「はぁ?!」
「母親は今日初めて見やしたけど。もしかしたら女手一つでガキ育ててんですかねェ」

思わず嘘だろうと叫びそうになった土方だが、さっきの子供は髪の色といい図太そうな面構えといい、どう見ても万事屋の遺伝子が入ってるとしか思えないほどにそっくりだった。

「……オイ総悟。今日の見回りは中止だ。」
「は?」
「あんの野郎、俺が性根叩き直してやる!」

後ろでにんまりと悪い顔で笑っている沖田に気付かなかった土方は、その足で万事屋へと向かった。


* * *


「だーかーら、違うって言ってんだろーが!」
「嘘つけェェ!あのくりっくりの天パといいクリソツじゃねーか!テメェの腐ったもんちょん切ってやらァ!」
「ちょ、誰かァァァ!」

その後、新八や神楽たちが説明して、何とか隠し子疑惑は晴れたのだった。

「どこ行きやがった、そーごォォォ!」

高杉と九兵衛

某所にて。

「よう、待たせたな」
「遅い」
「ククク、怒んなって。着替えの時間にはちょうど良かったろ?」
「……まあな」

そう答えた九兵衛の姿を見ると、いつもの服ではなく艶やかな着物を着て、髪も緩く束ねている。向かいに座った高杉に九兵衛は眉をしかめた。

「高杉」
「どうした、恐ぇ顔して」
「斬ってきたな。血の臭いがする」
「そうかァ?一応、風呂には入ってきたんだがな」
「お前の風呂の入り方は烏の行水だからだろう。入ってこい、食事がまずくなる」
「だったら、一緒に入ろうぜ。幸い、この部屋には風呂も付いてるしなァ」
「嫌だ」
「いいじゃねェか。今更だろ」
「……ヤダ」
「そう言われると、逆に燃えるな」
「だからっ……お前が」
「俺が?」
「その……いやらしいことをしてくるだろう!だから、絶対嫌だ!」
「ハハハ、だったら尚更入ろうじゃねーか」

高杉はそう言うと九兵衛の腕をぐいっと引っ張った。

「あ、高杉!」
「ほら、行くぞ」
「ちょ、放せ!」
「ククク、やっぱ可愛いよなァ」

上機嫌に口笛を吹きながら風呂場へと向かう高杉と、真っ赤な顔をしながら引っ張られる九兵衛。
これから先はともかく、今は幸せそうな二人だった。

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