拍手のお礼小話ですが、ちょっと(私が)こっ恥ずかしいので倉庫収納。
銀新・沖銀・高九

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−01 〜 −03


−01 銀時と新八

そろそろかぶき町のネオンも輝きだそうという夕暮れ。今日も今日とて仕事のない万事屋の主は、懐の寒さを忘れてさせてくれるような温かな灯火が宿る我が家へと帰る。

「ただいまー」

新八が晩御飯を作っているらしく、いい匂いが家の中に漂っている。銀時は靴を脱ぐなり、台所へと向かった。新八は銀時に気付くと手を止め振り向いた。

「お帰りなさい、銀さん」


――チュッ。


「……今日の晩メシ、麻婆豆腐?」
「人にキスして御飯当てるの止めてくれませんか!当たってますけど!」

「今日はマーボーアルか!」

「ギャァァァ!か、神楽ちゃん、いたの?!」

新八は慌てふためくが、神楽は鼻で笑った。

「今更、キスの一つや二つ見られたくらいで、ギャーギャー騒ぐなメガネ。乙女アルかお前は」
「いやいや、そういう問題じゃないでしょ?!もっと何か言うこと無いの?!」
「新八ィ、いいじゃねーか、こういう問題はな、さらっと受け入れてくれる方が珍しいんだぜ。寧ろ、ここに居たのが神楽なことを感謝しなきゃいけねぇくらいだぞ」
「でも……」

言われて見ればそれは事実であるので、銀時の言葉に新八も頷く。

「一つだけ言ってもいいアルか?」
「おう、何でも言ってみろ」


「夜ウルサイ」


「「……………!!」」


「言ってくれれば姐御のところに泊まるネ。勝手にすればヨロシあるが、人の安眠だけは妨害しない事ネ」

すたすたと台所を後にする神楽。残された二人は顔を見合わせる。

「銀さん…………」
「新八……………」

物分かりが良過ぎるのも問題だと思った。

−02 沖田と銀時

「俺ァ旦那にだったら斬られてもいいと思ってんでさァ」
「何で?」
「だってそうでしょ。旦那に斬られても仕方が無いような人間に成り下がっちまったら、生きてちゃならないんでさァ」

今にも消え失せてしまいそうな寂しげな笑み。

「……沖田くん、何かあった?」

一瞬揺らぐ眼差し。沖田は表に出すまいと堪えているようだが、銀時には殆ど泣いてるも同然に見えた。

「お願いですから……訊かねぇでくだせェ。俺は旦那には嫌われたくねぇんです」
「うん、じゃあ訊かない」

沖田はほっとしたようだった。銀時はその気丈に振舞おうとする姿に、頭を撫でてやりたい衝動に駆られた。

「だけどさ、沖田くんにはアイツらがいるじゃん。俺の出番なんて無いと思うよ」
「近過ぎて気付かないってことは往々としてあることですぜ」
「それは否定しないけどね」

多分、誰しも一度は身に覚えのあることだろう。けれど、沖田が背負うものは決して軽くない。銀時は迷いを抱くこの子供が嫌いではなかった。

「それともう一つ理由があるんでさァ」
「もう一つ?」


「俺がアンタに惚れてるから」


「沖田くん」
「別に付き合って欲しいとか、そういうんじゃ無いんでさァ。ただ俺が旦那のことを好きなだけで」
「俺も沖田くんのこと好きだよ」
「ありがとうございやす。でも、それは万事屋の二人と似たようなもんでしょう?」
「……違うような、違わないような」

沖田はくすりと笑う。

「いいんですよ、旦那。それだけで俺は充分でさァ」
「沖田くんがそんな健気な子だったなんて、銀さん知らなかったな」
「ふふ、だから旦那」
「何?」
「いざって時は俺を殺してくだせェ」
「――お前は好きだって言った相手に殺せって言うのか?」

睨みつけるが沖田はさらに笑みを深くする。

「心配してませんぜ。何だかんだ言って、旦那優しいから」
「そんな日は来ないよ」
「俺もそう願ってまさァ」

だけれども、次に沖田が望んだときは――斬ってくれるだろうと――斬ってしまうだろうと――いう確信が二人にはあった。
その確信を沖田は満足に思ったが、銀時は哀しくて仕方が無かった。

−03 高杉と九兵衛

枕元に燈された行灯の光が、起き上がった女の白い肌をぼんやりと照らす。長く伸ばされた黒髪はさらさらと背中を流れていく。隣の男は眠ったまま。女はその寝顔にやんわりとした微笑みを向けると、そのまま布団から抜け出した。

「なんだ、もう帰んのか」

寝ていたはずの男は微動だもせず、ただ片目のみを開けて女を見ていた。そもそも彼の左目には包帯が巻かれている。女は男を全く気に掛ける様子も見せず、手早く身仕度を整えていく。

「最近、東城がうるさくてな。撒くのに苦労している」
「さすがは柳生家の箱入り娘」
「馬鹿にしてるのか」
「さあ」

サラシを巻き、着物を羽織り、袴を履き、髪を結い上げる。これでもう傍目には女には見えない。先程までの女らしい柔らかな雰囲気はどこかに消え失せ、代わりに鋭い眼差しと、小柄だとは感じさせないしなやか力強さを身に纏う。男はキセルをくわえながら、その一部始終をにやにやと見ていた。

「柳生家の連中も、まさか大事な大事な一人娘が俺の女になってるなんざ、これっぽっちも思わってねェんだろうなァ」
「当たり前だろう。バレていたら、ここに僕の命は無い」
「ククク、だろうなァ。元とはいえ、将軍家指南役の名家の跡取りが、この国を壊してやろうという幕府からのお尋ねモンと出来てるだなんて知れたら、柳生家も一貫の終わり。自分の娘を息子にしてまで守りたかったモノも全部ムダになる」
「……別にあの人たちは僕を男にしたかったわけじゃない」

翳りを帯びた女の表情は男にとって同情ではなく加虐心を煽られる。鼠をいたぶり嬲り殺す猫のように意地悪く訊く。

「だが、お前はこうして俺の元にいる」
「父上にも おじいさまにも悪いとは思っている。けれど、僕はもう嘘を吐いて生きていくことなど出来ない」
「ほう?」


「僕は大事な人のために剣を振るおうと決めたんだ――だから」


「だから、私は貴方のために剣を振るおう」


女は誇らしげに、そして嫣然と微笑んだ。

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