さすがに寒くなってきたので、新八がコタツを出してくれた。
最近は銀ちゃんも定春もすっかりコタツに入り浸っている。もちろん私も例外ではない。見ると銀ちゃんは胡座をかいて、ジャンプを読んでいた。
「だァァァ、神楽!」
「何で逃げるアルか!」
「俺の足を枕にするの止めろ!疲れんだよ!」
「何言ってるカ!銀ちゃんは私の枕になるために生まれて来たネ!いっそのこと、坂田魔苦羅に改名すればいいアル!」
「魔苦羅ってどこの暴走族だ、コラァ!第一、誰がそんな哀しい使命を背負って生まれなきゃならねぇんだよ!」
「銀ちゃんには愛が無いネ!」
「愛なんてねェよ!定春でも枕にしてりゃあいいだろ!」
「銀ちゃんの足の高さが絶妙ネ」
「あのなァ…」
「ぎーんちゃん……ダメ?」
「ダーメ」
「定春〜、銀ちゃんの頭ガリッと」
「わ、分かった!」
「ヤッホゥゥゥ!」
「あ!神楽、マジで寝んじゃ……オーイ。ったく、仕方ねェな」
コタツであったかく、銀ちゃんであったかく。幸せネ
「やっぱ冬はコタツっスよねー」
「みかんはデフォルトでござるな」
「そろそろ鍋が食べたいですね」
「オメーら、何和んでる。今日は品川に行く予定だろーが」
「一緒に入ってる晋助には言われたくないでござる」
* * *
「また子さん、そのへそ出しの服装は寒くありませんか」
「……寒いっス。けど、晋助様も結構寒そうっス」
「……確かに」
「拙者や武市殿はいいが、二人には冬服って用意してあるでござるか?」
「どうなんでしょうねぇ?」
* * *
「武市先輩!なんスか、その変なミカンの皮のむき方!」
「何かおかしいですか?」
「おかしいっス!何で繋がるように剥いてるっスか!林檎じゃあるまいし」
「だったらまた子さんはどう剥いてるんです」
「え?あたしは普通っスよ」
「拙者も同じでござる。ただ、白い繊維も取るでござるが」
「えー、万斉みみっちいっス」
「また子殿とは違って舌が繊細なんでござる」
「やるっスか?!」
「ったく、くだらねェことで盛り上がってんなァ」
「そういう晋助はどう剥くでござるか?」
「あァ?んな面倒なことしねェ。真っ二つに割る」
(男らしい…!)
新月の夜。常よりも闇深く、しんと冷え切った世界は沈黙しているようで、その実全ての騒がしさを飲み込んでいる訳ではない。
猫一匹見当たらない真夜中の路地に、突如鈍い光がさんざめく。
その光に瞬く間に囲まれた、栗色の髪を持った青年はにぃと不敵に笑った。
「お前さんら、俺を誰かと間違えてるんじゃねぇのかィ?」
切迫した状況だが、面白がるような響き。
勿論、人違いである訳がない。彼を取り囲む者たちにとって、その黒い隊服は憎悪の象徴であり、その顔は絶望に等しかった。
それでも眦を決した彼らは、じりじりとその間合いを詰めていく。
「あーあ。また、土方さんにどやされちまうなァ」
そう呟くと、彼は愛刀をすらりと抜き放った。
絶賛CM放映中!
* * *
「トシ!総悟だ総悟!」
「見りゃあ分かるって」
「もう流し始めたんですねィ」
テレビに映った沖田にはしゃぐ近藤。
年末になると、師走の慌ただしさに紛れて不穏な動きをする輩がいる。毎年、特別警戒と称し、取り締まりに力を入れるのだが、今年は松平の鶴の一声で、更にCMも流すことになったのである。そして、それに選ばれたのが、真選組随一の腕と恐れられる沖田だった。
「つーか、テロリストの撲滅じゃねぇだろ。テロ活動の撲滅だろ」
「トシ、俺が聞いた話だと、松平のとっつぁんがどーしてもそれにするって言ったらしい」
「なんか某国みたいですねィ」
「……それは銀魂世界の話なのか?」
「アンタ、なに訳の分かんないこと言ってるんですかィ?あー、やだやだ。これだから年取ると耄碌しちまって」
「斬られてェのかテメェェェ!」
ちなみに。
二人ともこのCMは当然の如く標準で録画。永久保存版にする気満々である。
ただし、土方はこっそりと。
いい人ではあるのだろう。
裏表なく実直で、優しくて包容力もあって、人に慕われる人徳もある。ズバリ言ってしまえば、金も地位ある。顔だってそれほど酷い御面相という訳でもない。美男子と呼ぶには無理があるが、精悍な面構えには本来不似合いであろう笑顔も、あの男ならば何故かしっくりとくる。
その柔和な笑顔は――比べることすら限りなく癪で腹立たしく悔しいが――在りし頃の父上を思い出させ、私に安らぎを与える。そんな事、これっぽっちも望んでなどいないというのに。
私は認めなければならないだろう、覚悟しなければならないだろう。
もう気付いてしまったのだから。嗚呼、今日もまた。
「お妙さーん!俺と付き合ってください!!」
――私はあと何回、この声を振り払うことが出来るだろうか。