05/05 土方十四郎
06/02 猿飛あやめ
06/13 長谷川泰三&武蔵
06/26 桂小太郎
07/07 寺田綾乃
07/08 沖田総悟
08/10 高杉晋助
08/12 志村新八
08/15 道信
08/22 服部全蔵
08/25 幾松
「土方さん、誕生日おめでとうございやす」
「……お前の場合、笑顔の方が恐ぇんだよ。何、企んでやがる」
「嫌だなァ。人がせっかくアンタがジジイに近付くのを祝ってやってんのに」
「これっぽっちも祝ってるようには聞こえねぇんだけど」
「まあまあ、これ俺からのプレゼントでさァ」
「全然人の話聞いてねェな、この野郎」
「はい、どうぞ」
「……お前さ、これ絶対毒入りだろ?確実に毒入ってんだろ!」
「何言ってるんでさ、総悟お手製の誕生日ケーキですぜ」
「だったら何だこの紫と緑のデコレーションはよォォォ!どう見たってドラクエの毒沼じゃねーか!殺る気満々だろコラァ!!」
「まあまあ、食べてみなせぇって」
「だから人の話聞けェェェ!」
「はい、あーん」
「自分で食うわ!貸せ!…………ブッ!ゲホ!ガッ!………テメェやっぱりなんか入れてやがるだろ!」
「何にも仕込んじゃいませんぜ。ただ、ナスとピーマンをペーストにしてクリームに練り込んだだけでさァ」
「お前が食えや!」
「マズイから嫌でさァ」
「テメェェェェ!」
「お、トシ。いたいた」
「近藤さん?」
「お前、今日が誕生日だろ?コレ俺からのプレゼントな」
「近藤さん!いや、すまねェなあ」
「いいってことよ。開けてみ」
「おう。中は……………」
「土方さん?プレゼントはなんですかィ?」
「…………ニコレット」
「ニコレット?」
「トシは煙草を吸い過ぎだからな。禁煙しろとまでは言わんが、もう少し減らした方がいい。効果があるのかわからんが試してみたらどうだ?」
「ハハハ!そりゃあいい!最高のプレゼントですぜ!」
「……ありがたく頂いておくよ」
「土方さん」「トシ」
『Happy Birthday!』
おまけ
「副長!誕生日おめでとうございます!プレゼント何にしようかと思ったんですけどマヨ10本にしました!」
「山崎ィィ!」
「は、はい!」
「……俺のことをわかってるのはお前だけだよ……グス」
「えええッ?!何で泣いてるんですかァァ!?」
「こんな日までお仕事とはご苦労なこったな」
標的が絶命したのを確認するとほぼ同時に全蔵が音もなく現れた。
いるのは知っていたから驚きはしないが嬉しくもない。
「こんな日って?」
「お前さん、今日が誕生日だろ」
「……よく覚えてたわね」
「別に覚えてたって訳じゃねェよ」
そういえば私も覚えたつもりはない全蔵の誕生日を知っている。
まあ、誕生日をいつから知っていたかなんて大抵の場合思い出せないのだけど。
「この世界にいるような人間で誕生日だからって仕事をしない人はいないと思うけど」
「まあな。でも自分の誕生日が命日だなんて、なんとなく嫌な感じだろ」
本心かどうかは分からないが、この場にはあまりにも不似合いな言葉に私はつい笑ってしまう。
そのおかしさに事実を教えてあげることにした。
「あいにくと誕生日に死んだ人間はいないわ」
「はぁ?」
「時計みたら」
時刻は既に12時を過ぎていた。
倒れている男が事切れた時には日付は変わり6月3日。
私の誕生日は6月2日。
「私もそこまで悪趣味じゃないわ」
私がそう言うと全蔵は呆れたような顔をした。
『Happy Birthday』
※後日続き→全蔵誕生日小話
エリート街道まっしぐらだったのも今は昔。
今はハツにも逃げられ、独りふらふらと職探し。
楽しみといえば酒かパチンコくらい。侘しいなあオイ。
「つーかアイツらのせいじゃねぇ?」
宮仕えを辞めたのは結果として自分の意思だが、アレやコレやは万事屋の連中のせいでクビになった。
いや、全部が全部ではないが、恨んでも罰は当たるまい。
「長谷川さん」
「うわッ!新八君?!」
「……そうですけど、そんなに驚かなくても」
「いやいや、おじさんちょっと考え事しててね〜」
不穏なことを思っていただけに、あまりのタイミングにかなりビックリした。
しかし、罰が当たるというか、コイツらの場合は罰を当てに乗り込んできそうだ。
「俺になんか用?」
「長谷川さんこれからお暇ありますか?っていうか暇ですよね」
「なにその断定。誰のせいだと思ってんの」
「まあまあ。よかったらちょっと僕に付き合ってくれませんか?」
「まあ、いいけどよ、今さらっと流したろ」
この少年も段々と雇い主に似て図太くなってきたような気がする。
エイリアンに喰わせようとしてた俺が言うことじゃないが、前はもう少し可愛いげがあったと思えてしょうがない。
* * *
新八君に連れられて着いたのは、万事屋の一階『スナックお登勢』。
まだ日の高いこの時間に店は開いていない。
「長谷川さん来ましたよー」
「え、なに。何なのコレ」
「お楽しみに。さっ、どーぞ」
新八君はにっこりと微笑んでいるが、正直不安で仕方ない。
果たして鬼が出るか蛇が出るか。そろそろと玄関を開ける。
パーンッ!
「長谷川さん誕生日おめでとー!」
クラッカーを手に、自分自身すっかり忘れていた誕生日を祝福してくれたのは、銀さんにチャイナ娘、それにお登勢さんにキャサリン。予想もしなかった展開に俺は驚きとあいまってただ呆然とした。
「銀さん、コレ……」
「ああ、まあなんだ、長谷川さんに色々迷惑掛けたし、世話にもなったからな。ささやかだけどそのお返しっつーことで」
「気にするこたァないよ。このバカ、あんたの誕生日にかこつけてケーキ食いたいだけなんだから」
「ホントの事言うんじゃねーよ!ババァ!」
「……いや、俺の分まで食べていいよ、ウン」
俺はバカだ。曲がった背筋を伸ばしてくれたのはコイツらだったじゃないか。何が係わり合いにはならないだ。そんな事出来る訳ないだろ。
「ありがとな」
あの日、万事屋に依頼をしたのは正解だったと思う。だからこそ今がある。
しかし、それとは別に気になる事が一つ。
「あのさ、そこにいるじーさん……誰?」
ごく自然に飲み食いしてるが、俺このじーさん公園で見掛けたことあるぞ。
ぼさぼさの白髪頭に野球帽、フンドシにジャージでビン底メガネ。
つーかホームレスのジジィじゃねぇか!
「今日が誕生日って言うから連れてきたネ」
「へ、へぇ……」
「マダオの将来の姿ネ」
「ふざけんなァァァ!」
アレ?やっぱ付き合いやめた方が良くね?
マダオ&武蔵 『Happy Birthday!』
『志村新八殿、神楽殿。日頃の御礼とお詫びを兼ねて二人をパーティーにご招待したく存じます。くれぐれも銀時には内緒で下記の場所までお越しください 桂小太郎』
桂から招待状を貰った二人は、パーティーという言葉につられて約束の場所の前まで来ていた。
「来ちゃったけどさ、大丈夫かな?」
「大丈夫ヨ。ヅラごときに遅れは取らないネ。逆に返り討ちにしてみせるヨ」
「いやいや、そういう心配はしてないけどさ。それよりも、このお店がね……」
繁華街の中でも一際異彩を放つこの店構え。
かぶき町四天王が一人、マドマーゼル西郷がママを務める、その名も。
『かまっ娘倶楽部』
「……おじゃましま〜す」
「あらん、いらっしゃ〜い」
(いっ!)
対応に出たのはあず美だった。新八たちにニッコリと笑いかけるが、二人は微妙に引き攣った笑顔になる。
「えーと、その招待状を頂いて、あの」
「お誕生日会でしょ?今呼んでくるわ」
(新八ィ、アレ化け物アルか)
(神楽ちゃん、人間色々だからそういうこと言っちゃダメだよ)
「二人ともよく来たな」
ヒゲの剃り跡も青々しいおじさん、もといお姐さんに呼ばれ、奥から現れたのは艶やかな着物を身に纏い、うっすらと白粉をはたき紅を刷いたぱっと見は美人。
「えェェェェ!桂さん?!」
「桂じゃないヅラ子だ」
「……いや、その」
新八も神楽も絶句する。
(……なんか微妙に似合ってるアル……)
(ウン。笑い飛ばせないとことが逆に辛いよね……)
しかし、さすがにこれくらいのことでうろたえる二人ではない。今までのアレやコレやに比べれば、桂がオカマでも女装好きでもどうってことは無い。
新八も神楽もすぐにいつもの調子に戻った。
「でも、お誕生日だって教えてくだされば良かったのに。知ってれば、プレゼント用意したんですけど」
「子供がそんな心配するな。二人が来てくれればそれで充分だとも。なぁ!銀時!」
「えっ?」
「銀ちゃん来てるアルか?」
「ばっ、テメェェ!」
奥の方から聞こえて来たのは、間違いなく銀時の声。
「ま、まさか……」
新八の額に汗がつぅと流れる。
ヅラ子に引っ張り出された銀髪ツインテールのそれはまさしく。
「天然パーマのパー子だ」
新八は思いっきり回し蹴り。
神楽は左ストレートを鳩尾に見事にきめた。
「アンタァァァ!何やってんだァァァ!」
「銀ちゃんにそんな趣味あったアルか!」
「趣味じゃねェェェ!」
「だったら何アルネ!あんまりにモテないから女装に走ったアルか!」
「違ぇよ!ヅラに宴会やるからって呼び出されたんだよ!そしたら、無理矢理着替えさせられたんだって!!」
「何を言うの、パー子。ツートップを張った仲じゃない」
「うおィィィ!洒落になんねえから止めろォォォ!何が悲しくてコイツらにこんな姿晒さなきゃならねんだよォォ!」
詰め寄る銀時に桂はしれっと言い放った。
「今日は俺の誕生日会だろう?余興は付き物ではないか」
「ふざけんなァァァ!」
その後、誕生日会はかまっ娘一同の踊りやビンゴ大会で大いに盛り上がった。遊ばれた銀時一人を除いて。合掌。
『Happy Birthday!』
『スナックお登勢』
笹を抱えて店へと現れた銀時。今日は7月7日、七夕様。そして。
「おーい、ババァ。これ誕生日プレゼントな」
「何言ってんだい。こりゃ私が店用に頼んだもんだろーが」
「いいじゃねぇか。これで来月の家賃チャラってことで」
「ふざけんなァァァ!テメェ、先月と先々月の家賃払ってねーだろーが!腎臓でも心臓でも売っ払って金作らんかィ!」
「うおぃ!心臓売ったら死ぬだろーが!」
「それくらいの気持ちで働けってことだよ、ボケェ!」
結局は前回の呑み代をチャラに。
「ったく、あの子らが来て、ちったぁ真面目に働くかと思ったのに……ん?」
笹の中に混じって、折り紙で作った短冊が一つ。
飾り付けはこれからするところだ。何か書いてあった。
<バーさんがそこそこ長生きしますよーに>
「……あんのバカ」
そうは言いつつも頬が緩む。
「タダイマ帰リマシター」
「お帰りキャサリン。頼んだのはあったかい?」
「ボケジジィデ困リマシタヨ。オ登勢サン、モウ飾リ付ケスルンデスカ?」
「ああ、これからだよ」
「ソレ、裏ニモ何カ書イテアリマスヨ」
「裏?」
短冊を裏返す。
<先月と先々月の家賃がチャラになりますよーに>
「……あんのバカァァァ!」
結局、家賃はチャラになったとか、ならなかったとか。
『Happy Birthday!』
「近藤さん、どうしたんですかィ?いやに機嫌が良さそうじゃないですか。柳生の件もあるし姐さんにいい返事でも貰えやしたか?」
「え、いや、お妙さんからはいつも通りコークスクリューを喰らって……じゃなくって!今日は何の日だ、総悟!」
「今日ですか?なんたって7月8日といやあ、7・8で質屋の日でさァ。全国質屋協会だか連合だかのキャチフレーズは『安心のお付き合い』。良かったらいい店紹介しますぜ」
「お前はどこの回し者だよ」
「土方さん」
「おお、トシ。ちょうど良かった。お前も用意してるんだろ?」
「まあな」
「よし、それじゃあ改めて……」
「総悟、誕生日おめでとう!」
「ありがとうございやす」
「でな、もちろん誕生日プレゼントもあるんだ」
「近藤さん“は”、別にいいのに」
「ちょっと待て。その、「近藤さんは」ってのはなんだよコラァ」
「アンタは当然の如く、俺に貢いでくだせェ」(笑顔)
「人の誕生日に嫌がらせのケーキ作って寄越した分際でない言ってやがんだァァ!」
「なーに言ってんでさァ。アレは俺の愛の篭もったケーキですぜ」
「篭もってんのは殺意だけだろうがァァァ!」
「ハイハイ、今日は総悟の誕生日なんだからな、二人ともそこまでー。まずは俺からな。総悟が気に入ってくれるといいんだが」
近藤が用意したのは、長着と袴の一揃い。落ち着いた色合いだが地味過ぎない、品のいい着物である。
「これは総悟に似合うだろうと思ってな。外行きに着てもいいし、デートに着ても悪くないし。なかなかいいだろう?やっぱりこういうのも一着はないとな」
「もの凄く俺好みの着物でさァ!さすが近藤さん。ありがとうございやす。けど……本当にこんな高そうなの貰っていいんですかィ?気持ちだけでホントに充分ですぜ」
「遠慮するな!それに総悟のために用意したんだからな。気に入ってもらえて俺も嬉しいよ」
「当たり前じゃねェですか。大事に着させてもらいまさァ」
「おお、きっと似合うぞ」
「で、トシもあるんだろ?」
「俺の受けた仕打ちを考えると、もの凄く釈然としないが一応な。総悟、ほらよ」
ぞんざいに渡された箱の中身は、刀の鍔。
表面には細かに菊の花が掘り出され、控えめながら金の色絵も施されている。一目で名工の手によるものだと分かる。
沖田は鍔を手に取り繁々と眺めている。
「……土方さん、アンタをちっとだけ見直しましたぜ」
「フン。素直に礼を言え。まあ大したもんじゃねェが、お前の剣には合うかと思ってよ」
「せっかくだから、ありがたく頂戴しまさァ」
「良かったな、総悟」
「ええ。これで土方さん殺る気も倍増ってもんでさァ」(笑顔2回目)
「オイィィィ!」
「総悟、良かったら着てみてくれんか?寸法も間違いはないはずなんだがな」
「そうですか?そんじゃあ、ちょっと着替えてきます」
沖田は着替えに行ってしまい、部屋には近藤と土方の二人だけ。
「近藤さん、アンタ随分張り込んだじゃねーか」
「それはお前も同じだろ。あれだってだいぶ前から注文してあったんだろ」
「そりゃアンタも同じだ。呉服屋に嬉々として通ってたじゃねぇか」
「仕方ないだろ。なかなかいいのがなかったんだから」
「ったく近藤さん、総悟には甘いからな」
「おいおい、トシだけには言われたくないぞソレ」
「お互い様だ」
しばらくして沖田が部屋へと戻ってきた。
「近藤さん、着替えてきやした」
「おお!やっぱり俺の見立て通り!よく似合うな〜」
(やっぱ総悟には甘いよなぁ)
『Happy Birthday!』
ガード下の屋台に見間違えることのない銀髪が見えた。そこへ近付く一つの影。
「……よう、銀時ィ」
「あー晋ちゃん、ひっさし振り〜」
異様に高いテンションで酔っ払い全開な銀時に、高杉は眉をしかめた。
「……酔っ払いが」
「んー?いんやァ、銀さんはァ酔ってませんッ!ヒック」
「完璧な酔っ払いじゃねえか」
「げふ。酔ってないっつったら酔ってないの!いーから飲めっ、とにかく飲めッ!親父ィ、コイツにも一杯よろしくぅ」
「オイコラ」
「まーいいじゃん。今ちょっと懐が暖かいんだよねー。一杯だったらおごってやるから座れー」
「いいのかァ?後ろからグッサリやるかも知れねぇぜ?」
「あーナイナイ」
「何でそう言い切れる」
銀時がニヤリと笑う。
「だって、それじゃあつまんねーだろ?」
「……フン、親父ィ、酒頼む」
* * *
銀時の話に適当な相槌を打ちながらコップを空けた高杉はすいと腰を上げた。
「そんじゃあな、バカ銀」
「あれ、もう行っちゃうの」
「一杯って言ったのはテメェだろ。別に酒を飲みに来たわけじゃねェ」
「つまんねーの」
「この前のことを忘れたわけじゃねーだろ」
「あ、そーだ。誕生日おめっとさん、高杉」
「な」
「だから今日は休戦な」
「……テメーはやっぱ馬鹿だな」
「ハーイ、僕はバッカでーす。ひゃはははは」
「死んでろ」
* * *
高杉が立ち去った後、屋台の親父が不思議そうに聞いた。
「銀さん、今の人と飲む約束をしてたんじゃないのかい?」
「してないよ。アイツがここを通るらしいって聞いたもんでな。まあ、会えたらラッキーみたいな」
「そんな演技してまでかい?……ったく、やっぱアンタァ馬鹿だよ」
「知ってる」
『Happy Birthday!』
いつも通り向かった万事屋。
「おはようございまーす」
って、どうせまだ寝てるんだろうけどね。
「オハヨー」
「おはよ」
「えっ?何で起きてるんですか?!」
「朝だからに決まってんだろ。あ、「どうせまだ寝てるんだろうけどね」とか思ってたんだろ」
「当たり前じゃないですか!二人とも僕が起こすまで起きないし」
「俺だってやるときゃ、やるっつーの」
「やる時?」
「あ」
「銀ちゃん!」
何、僕には内緒なわけ?
「とりあえず、今日は万事屋銀ちゃんはお休みネ」
「へ?」
「だから、今日はいいから」
「いや、朝ご飯の当番……」
「そんなの私たちでやるからイイネ」
「わっ、ちょっと!」
銀さんに抱えられ、外に出された。犬や猫じゃないんだからっ!
「夕方まで帰って来なくていいかんな〜」
玄関が閉じる。しかも、ご丁寧に鍵まで締めて。
「……休みなら帰るのはここじゃないんだけどなぁ」
これは夕方には来いってことだよね。けど、一体なんだろう。僕に見られたくない事……。
「あ」
そうだ、今日は僕の誕生日だ。きっと、僕に内緒で準備するつもりなんだ。そう思えば今の理不尽な仕打ちも笑って許せてしまう。
「二人とも、可愛いとこあるじゃん」
とりあえず、まだ朝早いし家に帰ることにした。正直言ってかなり楽しみだ。
* * *
夕方になり万事屋に戻って来た。そろそろかなぁ。やっぱ知らない振りして、驚かないと駄目だろうなぁ。なんかドキドキしてきた。ガラガラと玄関を開ける。
「ただいま帰りましたー」
「「新八誕生日おめでとー!」」
「わっ!ありがとうございます!」
うまく驚けたよな、うん。
「良かったわね、新ちゃん」
「姉上」
朝、出掛けてから姿が見えないと思ってたら万事屋に来てたのか。
「さ、主役が来たんですもの。ケーキのロウソクに火をつけましょ」
「ケーキもあるんですか?」
「しかも、手づくりアルヨ」
「そっか、銀さん作ったんだ。楽しみだなぁ」
――この時、僕は浮かれていて、もう一つの可能性に気付けなかった。
* * *
一気にロウソクの火を吹き消した。なんだかちょっと照れ臭いけど、人にこうやって祝ってもらえるのはやっぱり嬉しい。銀さんがケーキを切り分けてくれた。
「今日は新八の誕生日だかんな」
「銀さん、そんなにたくさんいりませんよ。みんなで分けましょう」
スポンジケーキに生クリームがたっぷり。上には苺も乗っておいしそうだ。そういえば、ケーキなんて久しく食べてないもんなー。
「まずは新八からだよな」
「そうネ。バクッといくアル」
「なんか、照れるなぁ。それじゃ、いただきます」
ぱくり。
………うぎァァァァ!
こ、コレ、ケーキィ?見た目は完璧ケーキだったけどォォォ!何で苦いの?何で刺激があるのお?!
僕は銀さんを睨み付けた。口笛でハッピーバースディ吹いてもごまかされないから!銀さんが苦り切った顔で視線を送ってくる。
(俺も頑張ったんだって。けどよぅ、お妙がどーしても手伝いたいって)
(そこは何が何でも止めるべきでしょう!)
(俺だって止めたかったに決まってんだろ!ケーキだぞ、ケーキ!甘いものォォォ!)
(卵焼きですらまともに作れない姉上に、ケーキなんていう超難度の料理が出来るわけないじゃないか!死ぬ気で止めろよォォ!)
笑顔でこっち見てるけど、あれは、(全部食べないと、どうなるか分かってるわよねぇ?)に決まってるんだ!今度は神楽ちゃんに視線を送る。
(神楽ちゃん、コレ知ってたよねぇ)
(私、一言も銀ちゃんが作ったとは言ってないアル)
(でもさぁ!)
僕と神楽ちゃんが無言で言い争いをするさなか、姉上が朗らかに言った。
「さ、みんなもいただきましょ」
死の宣告に等しい。
「い、いや、俺は医者から糖分控えるように言われてるし。なぁ新八?」
「今日くらいはいいじゃないですか」
「わ、私ダイエット中アル!新八が食べるヨロシ!」
「何言ってるの、食べ盛りが。神楽ちゃんケーキ好きだよねー」
僕だけ犠牲になってたまるかァァァ!
* * *
奇跡的に何とか食べ切ることが出来た……。今回は銀さんの手が入ってるからまだマシだったと言える。けど、2、3日は舌が使い物にならなそうだ。
「……銀さん」
「……なに」
「次はホールのじゃなくていいから、市販のにしましょ」
「賛成アル」
「そだな……」
嬉しいには嬉しかったんだけどなぁ……ケーキさえなければ……。
『Happy Birthday!』
先生が死んでから僕らは施設や里親に引き取られた。少しずつバラバラになるにつれて、もうあの時には戻れないのだと実感する。
だからといって今の生活が嫌なわけじゃない。寧ろ楽しい。毎日、色々なこと沢山があって、少しずつ世界が広がっていく。けれどその分、先生やみんなでボロ寺で楽しかった思い出がどんどん昔になっていってしまう。あんなに大好きだった先生の存在も薄くなっていってしまうかもしれない。悲しいような悔しいような気持ちになる。
けれど、絶対に忘れたりはしない。
今日はお盆。もちろん、お墓参りには行った。でも、先生に悲しい顔は見せたくないから。
だから、もう一つ大事な日。
『先生、お誕生日おめでとう!』
この声がどうか先生の元へと届きますように。
『Happy birthday』
※さっちゃん誕生日小話の後日続き。
いつも通りの大した事のない仕事。標的をあっさり仕留め、さっさと帰ろうと時計を見たところで思い出した。
「だァァァ!おっさん、ちょっとだけ死ぬの待ってェェェ!」
しかし、傷は致命傷でもう事切れていた。
「あーあ」
「全蔵、どうしたのん?」
「んー、いや別に」
時計は11時58分。まだ日付は変わっていない。
8月22日は俺の誕生日だ。
『自分の誕生日が命日だなんて、なんとなく嫌な感じだろ』
そんなことを本気で思って言ったわけじゃない。単なる当てこすりというか嫌がらせ。後になって考えてみれば、あの女だって本気だったとは思えない。ただの偶然と思い付きだろう。
それでも俺はこれから先、誕生日に仕事が入るたびに、この出来事を思い出してしまうだろう。言いさえしなければ、気にならなかっただろうに、今は本当に嫌な気すらしてくる。
全くもってくだらないと思いながらも、言い出した過去の自分が恨めしかった。
『Happy birthday』
夜分に桂が幾松の元を訪れた。手にはなにやら荷物を持っている。
「幾松殿、日頃世話になっている礼と誕生日プレゼントを兼ねてコレを用意したんだ。受け取ってはくれないか」
差し出されたプレゼントはサッカーボールくらいで、ピンク色の包装紙にふわふわと包まれている。
しかし、幾松は嬉しそうな顔をするどころか、怪訝な顔をしてソレを見つめた。
「……あたし、アンタに誕生日なんて教えた覚えないよ」
「フッ、俺の情報網をなめてもらっては困るな。誕生日を調べるなど朝飯前だ」
プルルル プルルル ガチャ
「あ、もしもし警察ですか?今、指名手配は」
ガシャン!
「幾松殿ォォォ!すんませんでしたァァァ!本当は常連のお客さんが教えてくれたんですっっ!」
「ったく、そうならそうと言いな。次やったら本当に通報するからね」
「ハイ、ホントすんません。今後気を付けるんで、警察だけは勘弁してくださいホント」
桂がそろそろと店を出ようとすると、待ちな、と幾松が呼び止めた。
「蕎麦、食べてきな。それと………ありがと」
* * *
桂が帰ったあと、プレゼントの包みを開けてみると、中にはいつも桂と一緒にいる「エリザベス」だとかいう、白ペンギンのお化けのようなぬいぐるみが入っていた。即座に包み直して見なかった事にしようとした幾松だが、数秒考え直し、ぬいぐるみはレジの横に置かれることになった。たまに大事そうに頭を撫でている。
『Happy Birthday!』
おまけ
そうして、いつの間にか北斗心軒のマスコットキャラになったエリザベスのぬいぐるみだが、何故か常連の一人、万事屋の銀時だけはいやーな顔をする。
「まさか、エリ……んな訳ないよなー」
今のところはその真相は知らない。