_____________歌の貝合わせ_____________


きみこふこころはちぢにくだくれどひとつもうせぬものにぞありける
 
 非と徒もう勢怒毛の爾ぞあ利个る
支み戀不るこころ八ちち爾九たくれと

和泉式部


    「 湯呑が割れた。」    よしだかよ


   君恋ふる心は千々にくだくれど
     ひとつも失せぬ物にぞありける

       
             
おとといの夜、湯呑が割れた。

地下鉄のA3の出口をでて、駅を背に右に27歩程あるいて、あんまり美味しくない珈琲を出すという喫茶店の脇を曲がり、ややゆるやかな坂道を下って。で、それからそのあと、どう行くんだっけ。あぁもうよく思い出せないけれど、とにかく、薄いBLUEの縁取りの眼鏡をかけた店員のいる雑貨屋で、あなたが買ってくれた湯呑。
湯呑のなかをのぞくと、いつも目の合う女の子がいた。

彼女とあたしは、不思議と気が合った。

 

2000年12月。雪が降る。湯たんぽにトクトクとお湯入れる。

―湯呑のなかで彼女は言った。「寒いね」って。

 

2001年12月。外国からの手紙。こちらは暖かいですと書いてある。

―湯呑のなかで彼女は言った。「寒いね」って。

 

2002年12月。花占いをする。好き.嫌い.好き.嫌い.好き.嫌い.好き?

―湯呑のなかで彼女は言った。「寒いね」って。

 

2003年12月。湯呑が割れた。

―彼女は、もう言わない。「寒いね。」って。

 

おとといの夜、あなたが買ってくれたあたしの湯呑は割れた。


ゆふさればわがみのみこそかなしけれいづれのかたにまくらさだめむ



和泉式部が、蛍を愛でたり、袖を濡らしたり、牛車のなかでいちゃいちゃしていた平安時代では、恋人や夫や両親が亡くなると1年間喪に服しました。

喪に服すとは、鈍色(黒ずんだグレー)の着物を着て、ずっとずっと愛する故人のことだけを想い、偲び、時間を過ごすこと。

時間泥棒のうじゃめく現在の日本では廃れてしまった儀礼(儀式)のひとつです。



恋人帥の宮を失った和泉式部は、たくさんの挽歌をつくりました。なかでも、

「あかざりしむかしの事をかきつくるすずりの水は涙なりけり」

という歌は、「和泉式部日記」を書く決心をした夜につくられた歌だといわれています。

次回は、和泉式部と帥の宮の愛を綴った日記を。A bientot! 




<参考文献>和泉式部歌集」 清水文雄校訂 岩波書店
「和泉式部」生方たつゑ 読売新聞社
「平安時代の儀礼と祭事」(国文学解釈と鑑賞別冊)





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